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大学キャンパスで「創発」を起こすために ―大阪経済大学【ほんのれん導入事例 no.4】

今から92年前、商都大阪で生まれた大学があります。大阪経済大学です。1930年代初頭、大阪の経済界が、これからの日本を担う人材を育てるために求めた学校でした。

 

2032年に創立100年を迎えるにあたり、大阪経済大学が目指すのは「生き続ける学びが創発する場」になること。キャンパスのさまざまな場所で、「創発」を起こす。そのビジョンにもとづいて、大阪経済大学は2024年4月に「ほんのれん」を導入しました。

 

設置されたのは、図書館の1階にある「創発の泉」と名付けられたラーニングコモンズです。2023年9月にリニューアルしたばかりの空間で、学生たちが自由に本を介した交流を楽しんでいます。経済界で活躍する同窓生の会「大樟春秋会」からの寄贈によって実現しました。

 

大阪経済大学の図書館1階「創発の泉」に設置された「ほんのれん」

 

大学に「ほんのれん」が導入されたのは、大阪経済大学が初めて。学生たちは、どのように「ほんのれん」を活用しているのでしょうか。5月31日に開催された体験ワークショップにて、先生方の狙いや学生たちの手応えをお聞きしました。

 

教職員と学生が、本を囲んで対話する

イベントでは、まず、ほんのれんの問いと本を使ったワークショップ「旬会」を体験。学生から教職員まで、立場も世代も異なる4名が1グループになって、それぞれが本を手にとります。今回は2024年5月号(vol.14)「ホントの自分?」という問いに基づいて、旬感本5冊から、各自が気になる本を選びました。

 

ほんのれん2024年5月号(vol.14)の旬感本5冊と、合わせて読みたい百考本(「旬感ノート」冊子より抜粋)


ワークショップでは丸善雄松堂の「旬会ナビゲーター」とともに、「表紙読み」や「目次読み」など編集工学研究所の読書メソッドを使いながら、たった15分で1冊の本を読みます。そして、読んだ内容をグループのメンバーと交わしあう。「問い」と「本」を行ったり来たりしながら思考を深める、対話型の超高速読書です。

 

問いと本を使うことで、場の雰囲気もあっという間に柔らかくなる。

 

「ほんのれん」体験の手応え

旬会を体験した3名の学生さんと、大阪経済大学 図書館長 草薙信照先生に、感想や手応え、キャンパスでの活用イメージを聞いてみました。

 

[お話を伺った方]

大阪経済大学 図書館長 草薙信照 先生(副学長・情報社会学部教授)

大阪経済大学 経済学部経済学科 3年生 田中健斗さん

大阪経済大学 経済学部経済学科 2年生 村上旅途さん

大阪経済大学 人間科学部人間科学科 2年生 山下雄雅さん

(聞き役)編集工学研究所 執行役員/シニアプランナー 姜舜伊(かん すに)

 

 

 

本が苦手でも、5分で1冊読める!

――かなり短時間で、対話をしながらの読書でしたが、いかがでしたか?

 

山下さん:

ぼくはふだん、あまり本を読まないんですが、読書のハードルが下がりました。自分にとって読書のイメージって、時間をかけてきっちり読むことでした。そうすると読んでいる途中から、最初の内容を忘れてしまって……。

でも、今回、5分で内容をざっと読んで、それを誰かと話し合うことを初めて体験してみたら、30分弱のワークショップのなかで4冊もの内容がインプットできたんです。すごく短時間だったはずなのに、一気にたくさんの本が読めたようで驚きました。

 

田中さん:

限られた時間で読むからこその面白さがありました。本を全部読んでしまうと、みんな似たような感想になってしまうかもしれませんが、高速で全体を把握しようとすると一人ひとりが興味をもった箇所が明確になるんですね。

 

――草薙先生も学生さんといっしょに旬会を体験してくださいましたね。

 

草薙先生:

今日はたくさんの教職員や学生さんが参加してくれて、さらには他大学からのお客さんもいらっしゃったのに、お客さんの存在を忘れるほど本の議論に熱中してしまいました(笑)。

いま、学生諸君が言ってくれたように、旬会をすると、ほかの本との関係性を引き出せるのがすごいですね。ふだんの読書だと「かつて読んだあの本と似ているな」と、過去に読んだ本を思い出すだけですが、旬会で5分、10分話しあうだけで4〜5冊の本と関係が見えてくる。私も、話しているうちに「ホントの自分」ってこういうことだったのか、と仮説が立ちました。

 

読んで、すぐに交わし合う。これを繰り返すことで、それぞれの気づきが重なり合い、対話も思考も加速する。

 

旬会は「モノボケ」!? 本を使ってコミュニケーションが活性化

――どのグループも最初は静かだったけれど、途中からは話が止まらないほど盛り上がっていましたね。

 

山下さん:

先生方や職員さんとも同じグループになって旬会をしました。本を使うと、世代が違う人ともこんなに幅広く話せるんだという驚きがありましたね。

ほんのれんを使ったワークショップは、初対面のアイスブレイクにはぴったりですし、すでに関係が深まっている仲でも、本を通すことでさらに新たな発見が生まれそうだなと思います。

 

村上さん:

本を介して、自分のことを話すというのが面白かったです。お笑いの手法として、与えられたモノにちなんでボケるという「モノボケ」がありますが、旬会もそれに似ていますね(笑)。本を使うことで、新しい自分が引き出される感じも新鮮でした。

 

問いと本を介することで、一気に自分の考えを言葉にしやすくなる。

 

「ほんのれん」が創発を生む!キャンパスでの活用イメージとは

――学生生活で「ほんのれん」をどんなふうに活かしたいですか?

 

村上さん:

コミュニティづくりに役立てられそうだなと思いました。ほんのれんでさまざまな方と対話をして、次に会ったときには「ほんのれんでお話しした◯◯さんですよね」というところから、創発や共創につなげていきたいと思います。

 

田中さん:

「問い」と本の組み合わせが面白いなと思いました。先月の問いは「大人ってなんだ?」という抽象的な問いでしたが(ほんのれんvol.13)、その問いも5冊の旬感本を手渡されると、いろいろな角度から考えられます。

私は学生組織「DAIKEI Oritor’s Group for Students」(通称DOGs)という団体で新入生を支援する活動をしていますが、この活動にもひとつの決まった正解があるわけではないんですよね。新入生とコミュニケーションするためにも、いろいろなアプローチがありそうだなということを、ほんのれんの旬会を通じて再確認することができました。

ほんのれんは、たくさんの本に触れられるツールですが、それだけでなく、自分たちが目指すゴールに向かっていく方法を考えるツールとしても使えそうだなと感じています。

 

 

――学生さんから頼もしいご意見をいただきました。

 

草薙先生:

3名の学生さんが、この30分の旬会を体験しただけで一気に成長したことがよくわかりました。それがこの「ほんのれん」というツールの素晴らしさだと思います。

大学にとって重要なのは、学生たちの活動の場を用意すること。学生たちは、ちょっとしたきっかけがあるだけで、自発的に伸びていきます。「ほんのれん」を大学に導入することにハードルがなかったわけではありませんが、それを乗り越えて導入が実現して、あらためてよかったと感じています。

 

――「ほんのれん」に、どのようなことを期待されていますか。

 

草薙先生:

私はもともと本が好きで、神田の古本屋街などで思いもよらぬ本と出会うことを楽しみにしていましたが、「ほんのれん」を見ると、ここがお気に入りの本屋になったような感覚です。本を手にとって、ちょっと議論してみる。そこから、大学における創発が始まるのだと確信しています。

 

大学では初の「ほんのれん」導入校となった大阪経済大学。学生の皆さんが牽引していく「ほんのれん」活動の今後に、期待が高まります。

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