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「考える力」「対話する力」の底上げに本を使う──「Quest Link」実践事例:POLAさまの場合

本を活用した対話型のセッションを積み重ねることで“共創型組織”の基盤づくりを支援するそんな「Quest Link」の理念に共感し、テスト導入をしていただいた株式会社POLAさまに、導入に至った背景やセッション実践時に気づいた点、今後の展開をうかがいました。

 

重要なのは情報の「インプット」ではなく、「方法」の伝授

── 本日はお忙しいところ、ありがとうございます。まずは「Quest Link」の導入の経緯からお伺いしたいと思います。

 

ポーラ 執行役員・人事戦略部長 荘司祐子さん(以下、荘司):こちらこそ、よろしくお願いいたします。「Quest Link」の導入の経緯は、ポーラの事業理念と関係があるんです。

 

わたしたちは主力事業であるハイプレステージ化粧品の開発・販売を通じてお客さまの人生をより美しく、前向きにしていきたいと考えています。それは人生における新しい価値観の創造と提供、という側面もある仕事です。ただ、新しい価値を生み出すというのは、けっして簡単なことではありません。

 

この事業理念の実現に対し、人事戦略部としては、まず、ポーラの社員1人ひとりの創造性を底上げするという課題がありました。一方で、ポーラには「共創」に力点を置く組織風土があります。1人のイノベーターがプロジェクトを主導するのではなく、社員同士がお互いに対話を繰り返しながらイノベーションを起こしていく。その際、重要なのはどのような対話がなされるのか、ということです。

 

個人レベルの「考える力の向上」、組織レベルの「対話の質の向上」を人事戦略上のテーマとして設定した時に「これだ!」とピンと来たのが「Quest Link」でした。

 

ポーラ 人事戦略部 ヒューマンバリューチーム チームリーダー 松場裕子さん(以下、松葉)「自分の目線でものを考える」のは普通のことで、特におかしいことではありませんが、別の見方をすると、「自分の思考の癖に囚われている」とも捉えることができます。「考える力」を底上げするためには、さまざまな人が持つ多様な価値観を自分の中に取り入れ、それらを組み合わせて、柔軟に考えられるようになった方がよさそうです。ただ、「自分という枠」から抜け出すには、自分だけの力ではなかなか難しいものです。そこで外部からの刺激が必要だと思うのですが、その刺激の1つとして「本」というのはとても有効なツールだと感じました。

 

ポーラ 経営企画部 CSR・秘書チーム チームリーダー 佐藤幸子さん(以下、佐藤):個人レベルにとどまらず、組織レベルでも、イノベーションの起点となるのは、問いの発見ですが、これはとても難易度が高いですよね。ポーラの社員は「すでに答えのある問い」の処理については非常に優秀だと自負していますが、「問いそのものを生み出す」とか、「明確な答えが存在しない類の問いを思考する」ということをもっと養って欲しい……、このことはわたし自身も人事戦略上の課題だと考えています。

 

── これまで社内で、対話によって議論を深める「場」や「機会」はなかったのですか?

 

荘司:いえ、今までも「創造力を鍛える」と銘打った研修はたくさん行なってきました。ですが、それらの研修はいずれも、事前のオリエンテーションでその効果は納得できるものの、研修後に社員が自律的に学んでいけるような継続性の高い方法ではなかったのです。それらの研修と「Quest Link」が違うのは実践を通じて「方法」を教えてくれる点です。情報の一時的な「インプット」ではなく、この先ずっと使っていける「方法」の伝授。このことは研修を企画する人事部として、とてもメリットのあることだと感じています。
 

「自分はどう考えるか」を問う仕組み

── 実際に「Quest Link」のセッションを行ってみて、どのような感想を持ちましたか?

 

佐藤:目の前の業務の先にある「未来」を考えるいいきっかけになった、という意見が参加者全員から出ました。

 

松葉:事前に設定したディスカッションテーマに対して、それぞれの参加者が、本の内容を踏まえながら意見を言い合うんですが、途中、「本から離れちゃうんですけど」と言って、予想外の新たな議論につながっていく展開が多く見られました。まさに「本に乗って、まだ見ぬ場所に行く」感じがありました。

 

荘司:「問いを飛躍させること」や「今までにない新しい視点を持つこと」は、通常であれば、なかなかできることではありません。それが、本を使えば素人でもできる、というのはちょっとスゴいことです。

 

わたしが個人的に面白かったのは、自分の意見を言う時でも、「この本にはこう書かれている」という感じで本の要旨に自分の意見を乗せる形でグループ内に提示すると、健全な議論に発展しやすいことです。これは本を使ったディスカッションという仕組みの特徴なのかもしれないのですが、これなら、かなりシビアなテーマの議論も場の心理的安全性を確保しながら、広く深くできるんじゃないかな、と思いました。

 

── なるほど。実は発信しているのは自分の意見だが、本という乗り物を経由しているため、グループ内で意見が出やすいし、仮に批判があったとしても、その内容の鋭さや深さと比較するとトーンは柔らかくなる、と。

 

佐藤:しかも、みんなそれぞれ違う本を読んでいるので、結局それが著者の言い分なのか、発言者の意見なのかどうかは分からない(笑)。本を経由することで、よりフラットな意見の出し合いができるんだなと感じました。

 

また、過去と現在、抽象と具体といった様々なレイヤーでの議論もできたと感じています。

 

── 「Quest Link」で行われる議論の蓄積は、組織にどのような効果をもたらすと感じましたか?

 

荘司:「ポーラの社員は対人共感能力がとても高く、妥協点をうまく探りながら物事を決めていくコミュニケーションが得意」だとわたしは思っています。一方で「あなたはどう思うの?」と個人としての答えを聞くと、「もっと自分の意見を語って欲しい」と思うことがあります。自分の中に確固とした「軸」を作り、ポーラが「仲良しこよしの組織」になってしまわないような環境作りに貢献してほしいですね。

 

「Quest Link」の優れている点は「自分はどう考えるか」を常に問う仕組みになっていることですが、ゼロから何かを考え出すという難易度の高いことを要求するのではなく、本の著者の主張を想像し、それをもとにして自分自身の考えを模索していくという風に構造化されているのが優しいですね。だからこそ、「Quest Link」で行われる対話は、“共創型組織”の風土づくりを行う上でかなり効果があるんじゃないかなと思います。

 

佐藤:その通りだと思います。もちろん、私たちは多くのビジネスパートナーと一緒に事業を行なっているので、まずは相手に「コミュニケーションを取りやすいな」と思ってもらう必要があります。そういう意味で、「妥協点を探りながら、物事を決めていくコミュニケーションが得意」なのはわたしたちの強みです。しかし、次の一手に関しては手詰まりになりがちで、そこはやはり何らかの変化が必要なのだと思います。特に20〜30代の社員に「Quest Link」で実践したような議論や対話の意義を感じてほしいですね。

 

本を使って対話を楽しむ

── 「Quest Link」を導入する際、ハードルはありましたか?

 

佐藤:ポーラでは多くの研修を試してきたこともあり、「Quest Link」の導入ハードルはそこまで高くは感じませんでした。そもそも「1つのやり方に固執するのは怖いことだ」ということは分かっていましたので。研修対象や狙い、コストを比較・検討しながら常にベストのやり方を模索しているところです。

 

荘司:これまでの研修経験から、「発想力や企画力を付けよう」というメッセージの出し方では、社内ではなかなか支持を得られないことが分かりました。「Quest Link」は「本」と「専用のシート」を使うだけなので、誰でも簡単にできます。「全然、難しくない」ということが伝われば、研修対象者の受講までのハードルは下がるでしょう。「企画力向上の研修です」と言うより、「本を使って対話を楽しもう」という感じの社内PRの方が、今までの研修とは一味違う雰囲気が出ていいのでは、と思っています。

 

── では最後に、POLAでの今後の「Quest Link」の展開を教えてください。

 

荘司:最初の「Quest Link」セッションは7人で始めました。次は人事戦略部30人で行う予定です。その後のことはまだ未定ですが、ポーラ全社員のリテラシー教育の一貫として、定期的に行えるようにできれば、と考えています。あるいは、リーダー育成教育への適用も考えられます。抽象的な議論の技術を磨くためのスキル強化研修として、社内に浸透できたら面白いですね。

 

── 本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

聞き手:谷古宇浩司(編集工学研究所 クリエイティブ・ディレクター)、構成:弥富文次

 


 

荘司祐子さん

株式会社ポーラ 執行役員・人事戦略部長
ポーラ入社後、営業、販売企画、CRM、営業推進を経て2017年から人事を担当。想像力、発想力豊かな人材の育成と多彩な人材がお互いを高め合う共創型組織づくりに取り組む。

 

佐藤幸子さん

株式会社ポーラ 経営企画部 CSR・秘書チーム チームリーダー

ポーラ入社後、営業、組織開発、百貨店事業、ブランディング、人事を経て、2019年から経営企画部。現在は会社の社会的価値向上に向けてサステナブル経営などCSR活動全般、及び秘書長としてトップサポートを行う。

 

松場裕子さん

株式会社ポーラ 人事戦略部 ヒューマンバリューチーム チームリーダー

新卒でSEとしてIT企業に就職。2006年に株式会社ポーラに転職し、情報シスエム部にて各種システムの企画開発に携わる。2018年に人事戦略部へ異動し、働き方改革、組織風土改革、人材育成を担い、現在に至る。

 


 

*“共創型組織”開発メソッド「Quest Link」の詳細についてはこちらへ

 

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