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主体的な問題発見を促す「探究型読書」授業の実践、かえつ有明中・高等学校の挑戦

「学習」から「探究」へ

 

2019年度の学習指導要領の改訂により、従来「総合的な学習の時間」とされてきた科目が「総合的な探究の時間」に変わった。文部科学省が「探究」という言葉に込めた意図を学習指導要領の記述をベースに推測すると、「生徒による自主的、主体的な問題発見と解決能力の醸成および訓練」という風にまとめることができそうだ。

 

生徒の主体性を刺激し、すでにある答えの導出よりも、これまで存在しなかった問いの発掘にスキル開発の軸足を移す「総合的な『探究』」ーー。この方向性への改訂に異論を唱える向きはそれほど多くはないだろう。しかし、実際に「総合的な探究の時間」の授業を組み立てる教員や当の授業に参加する生徒たちにとっては、新しい試みに伴う若干の戸惑いがないとは言い切れない。

 

しかも、事態をさらに複雑にするのは、「探究」というコンセプトの教育現場における影響範囲だ。「総合的な探究の時間」一単元に留めず、国語、数学、理科、社会、英語……などさまざまな既存単元を貫く「グランド・コンセプト」として「探究」という言葉を活用しようとする動きもある。

 

このような状況に対し、編集工学研究所は、教育現場の支援を目指して、自ら運営する「イシス編集学校」で蓄積してきた情報編集の技術をベースに、本を使った新たな学びの方法論と実践プログラムである「探究型読書」を開発した。2019年度はいくつかの私立中学、高等学校と共に、同プログラムの生徒に対する学習効果を検証する試みを積み重ねた。かえつ有明中・高等学校(江東区)も「探究型読書」の授業への試験導入に踏み切った学校の1つだ。

 

自分の「見方」に出会う:本の帯づくり

 

「探究型読書」は大きく3つのステップで授業を構成する。

 

最初のステップでは、生徒は手に取った本のタイトルや目次だけを頼りに本の内容を要約する。この時点では、生徒は本を読んではいない。それゆえ、どのような内容の本なのかを正確に記述することはなかなかできないが、このステップではそのことは問題にならない。むしろ、限られた情報を手掛かりに、自力で仮説を組み立てるという頭の操作に慣れてもらうことを編集工学研究所は企図している。この段階で生み出された仮説は、生徒それぞれが持つユニークな物の見方を言語化したものと言える。このステップで生徒は、自身が選んだ本の「キャッチコピー」と「要約文」を作成することになる。つまり、帯のコピーライティング・ワークを実践するのである。

 

タイトルや目次情報を元に帯のコピーライティングをしたある生徒(中学2年生)は、「本を読む前の段階で、タイトルと目次から自分なりに内容を推測するようになった」と話す。また、ある生徒は「本棚に並んでいる本のタイトルに注意を払うようになった」と言い、自分とは関わりのない、ある意味、風景の一部のようだった本のタイトルが存在感をもって、自分に迫ってくるという体験を話してくれた。

 

「関心」に出会う:「三冊棚」づくり

「探究型読書」の最初のステップで1冊の本を「編集」した生徒は、次に図書室の棚から任意の2冊を選び、合計3冊を貫くキュレーション・メッセージを創案する。それがこのステップのゴールである。

 

3冊の本をキュレーションするには、自身の関心を顕在化させ、言語化することが前提となる。その際、3冊の本の関係性をどのように設定するかが問題となる。イシス編集学校では、情報を関係づける基礎的な方法として、3つの要素で構成される「編集思考素(thought form)」という思考の型を学ぶことができる。「探究型読書」でも「三冊棚」を考える時の思考の型として、同様のものを活用する。

 

 

 

 

 

最初のステップで訓練した「限られた情報での仮説設定や抽象化作業」を応用することで、異なる3冊の本に共通する要素を抜き出したり、あるいは逆にテーマに関連する3冊を任意に選び出すことが可能となる。

 

「問い」を育てる:新書の企画

最後のステップは、これまでの2ステップで行ってきた訓練の総括として、まったく新しい新書の企画を立案することになる。

 

 

「著者名」「出版社」「タイトル」「サブタイトル」「目次」をすべて作成する過程で、生徒は通常、出版社の編集者やクリエイティブエージェンシーのプランナーが直面するようなクリエイティブ上の「壁」にぶつかるだろう。つまり、事象の本質を言い当てることの困難さである。この「壁」を乗り越えるための武器が、これまでのステップで訓練してきた情報編集の技術である。これらの技術を自在に使えるようになることが、「探究型読書」の到達地点であると言える。かえつ有明中・高等学校では、生徒による新書の企画アイデア群をカフェテリアに掲示し、誰でも閲覧できるようにしているのだが、その企画アイデアはいずれもたいへんユニークなもので、授業を担当した先生は「もし、出版されたら読んでみたい新書の企画がいくつもあって驚いた」と話す。

 

「探究型読書」が刺激した図書室の存在感

 

かえつ有明中・高等学校では、「探究型読書」の授業は、生徒が愛称ドルフィンと呼ぶ図書室で行われる。その中にプロジェクトスペース(PS)という授業のできるスペースが4箇所ある。生徒は授業でプロジェクトスペースを頻繁に使用する。従来型の図書室が持っていた(いい意味でも、悪い意味でも)閉鎖的なイメージとは異なり、とてもオープンな雰囲気のスペースである。

 

それゆえ、生徒たちはプロジェクトスペースを移動する最中に本棚を眺め、必要なら立ち止まって立ち読みをすることができる。それはしかし、運営者サイドの思惑であって、利用者である生徒たちは必ずしも、本を読むために足を止めてくれるとは限らない。

 

いかに生徒に図書室を利用してもらうか。同校の司書を務める眞田章子先生はこの問題に頭を悩ませていたが、「探究型読書」が授業で行われるようになると、生徒たちが本を探すために本棚の間を行ったり来たりするという「前代未聞の光景」(眞田先生)が目の前に現れるようになった。しかも、休み時間や放課後の本の貸し出し件数も増えたという。

 

生徒による主体的な問題発掘スキルの錬成を支援する「探究型読書」だが、物理的な本を活用するというプログラムの性質上、副次的な効果として、図書室の利用促進にも寄与することになったようである。

 

谷古宇浩司(編集工学研究所 クリエイティブ・ディレクター)

 

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