「問う力」を育てる人材育成 ―ネットワンシステムズ社での「ほんのれん」研修導入事例
AIが瞬時に答えを出す時代、人間に求められているのは「正しく答える力」ではなく「何を問うべきか見極める力」です。いま、企業研修の現場で静かに反響を呼んでいるのが、本と問いで思考を深める「ほんのれん」の読書対話。これは読書会でもなく、論理力トレーニングでもありません。参加者同士が本を道具にしながら、あたりまえを疑い、思い込みを剥がし、一人では発見できない「問い」を生み出し、深める時間です。
今回の記事では、2025年11月にネットワンシステムズ株式会社管理本部で実施された研修の模様をお届けします。
いま必要な「問う力」を育てる
会場となったのは、東京品川区にあるネットワンシステムズ イノベーションセンターnetone valley。ここは2023年5月に「新しい価値を創造し豊かな未来を切り拓くチャレンジの場」として開設されたコラボレーション空間です。
イノベーションの創発プラットフォームである7階のスペースに集まったのは、36名の女性社員。研修講師を務めるのは、「ほんのれん」の編集制作を担っている4名のほんのれん編集部メンバーです。参加者も登壇者もすべて女性という、ほんのれん編集部にとっても初めての研修です。
まず、金井朗子管理本部長から「20年後、30年後と時代が移り変わっていくなかで、時代の変化により人に必要なアプリは変わるかもしれません。けれど、リベラルアーツや問う力、ロジカルシンキングといったOSはずっと変わらず有効である、とある研修で聞きました」とご挨拶をいただき、ワークショップは始まりました。

本日のテーマは『問いはどこに隠れてる?〜「あたりまえ」を引き剥がす〜』。
ほんのれん編集部の編集長、仁禮洋子が話し出します。
「『問う』と聞くと、難しく感じる方もいらっしゃるかもしれません。『いま、あなたが抱えている問いはなんですか?』と聞かれても、すぐ答えられる人はあまりいらっしゃらないでしょう。けれど、問いの種は意外と身近なところに隠れています。今日はそれを体感いただきたいと思います」。

参加者の手元には、このテーマを深めていく5冊の本をまとめた冊子「旬感ノート」が配布されています。最初のワークは、テーマに関する質問が散りばめられた「問いのれんワークシート」に答えること。
参加者は、旬感ノートのページをめくって、「幼い頃、不思議でたまらなかったことは?」「いつもの通勤路で、宇宙人が気になることは?」など、さまざまな問いを書き込んでいきます。
「小さい頃は、アニメの主人公は空を飛べるのに、なんで自分は飛べないんだろうって本気で思っていました」
「お姉ちゃんが、毎日学校に行っているのが不思議でした」
「宇宙人になったら、地面にあるマンホールが気になるかも……」

たった5分で、一人ひとりの旬感ノートに素朴な疑問がたっぷり登場。仕事仲間から発せられる意外な「問い」に、会場は湧きます。
「来年の目標」ならぬ「来年の問い」を立てるなら
つづいては、「問いはどこに隠れている?」を深める5冊の本の内容を、ほんのれん編集部が紹介していきます。
「なぜ、自分が捕まえたいカッコいいチョウチョは高いところを飛ぶんだろう?」少年時代のささやかな疑問が高じて、動物行動学者になった日高敏隆さんのエッセイから、創造的思考を生み出す「アブダクション」という推論を紹介した重厚な1冊まで、超高速で内容をインプット。メモを取る手が止まりません。

「問い」の種類や性質の違い、問うことの効果などをしっかり納得したうえで、みなさんは次なる課題に取り組みます。それは「『来年の目標』ならぬ、『来年の問い』を立てる」ということ。
「来年の問い」という不思議な言葉に、会場全体にハテナが浮かびます。「何を考えたらまったく検討がつかないんですが……」と、会場から声があがります。
編集長仁禮が応じます。
「じゃあ、『来年の目標』は何かありますか?」
「本をたくさん読むこと、でしょうか」
「いい目標ですね! では、どうして本をたくさん読みたいんでしょう?」
「えーっと……、なんででしょうね。世界の見方を増やしたい、とか? そうか、見方を増やしたいならば、本を読むだけではなくて、映画を見るのでもいいし、人と話すでもいいですよね」
「本を100冊読む」といった目標としてゴールを決めるのもいいけれど、「私は、なぜ本が読みたいんだろう?」「世界の見方を変えるには、どんな方法があるだろうか?」という問いの形に変換してみると、望む未来へのアプローチ方法がたくさんあることが見えてくるのです。

対話で「問い」が立ち上がる
「来年の問い」を考えるためのグループ対話が始まります。仕事の目標から子育てや介護の悩みまで、それぞれが抱える違和感や希望がシェアされていきます。そして、問いの数々が自然と生み出されていきます。
「健康って、私にとってどんな状態?」
「仕事と子育てのいいバランスって?」
「人生を楽しみたいと思っていたけど、そもそも楽しいってなんだろう?」
「『楽しい』と『幸せ』ってどう違う?」
「私たちは、何のために働いているのだろう?」

2時間のワークが終わると、みなさんの顔はとても晴れやかになっていました。
「『問う』って難しいことだと思い込んでいましたが、『問いは自分から生み出すものではなくて、場に潜んでいるもの』なのだとわかって、心がとても軽くなりました」と沖千里 人事部長からご挨拶をいただき、研修が終了しました。

問いというのは、一人で眉間にシワを寄せて考えて生み出すものではなく、誰かとの軽やかな対話のなかで、ふと見つかるもの。ふだんはどこかに隠れている「問う力」が、それぞれのなかから蠢きはじめた時間でした。
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