[AIDA]受講者インタビューvol.8 須藤憲司さん(Kaizen Platform代表取締役)

受講者の声

強烈な[AIDA]体験をきっかけに、起業

「世界をカイゼンする」をミッションに掲げ、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速・最適化する、株式会社Kaizen Platform。創業10年で、すでに累計取引企業は1000社を超える。代表取締役・須藤憲司さんは、2013年に33歳でリクルートを退社し、米国シリコンバレーで同社を起業した。実はその裏には、強烈な“AIDA体験があったという。
須藤さんは[AIDA]で何を得たのか。体験を振り返っていただいた。

須藤憲司(株式会社Kaizen Platform代表取締役)

1980年生まれ。早稲田大学を卒業後、リクルートに入社。同社のマーケティング部門、新規事業開発部門を経て、史上最年少でリクルートマーケティングパートナーズ執行役員に就任。2013年、33歳の時に米国シリコンバレーでKaizen Platformを創業。2020年東京証券取引所マザーズ上場。現在は日米2拠点で事業を展開、企業のDX推進を支援するプラットフォームとサービスを提供する。著書に『90日で成果を出す DX入門』『総務部DX課 岬ましろ』など。

「わからない」を受け入れることからはじまった

――AIDA]を受講された経緯を教えてください。

須藤:リクルートの新規事業開発部門の事業部長を任された頃だと思うのですが、当時の上司だった峰岸さん(峰岸真澄さん、現・リクルートホールディングス代表取締役会長。ハイパーコーポレートユニバーシティ[AIDA]第1期生)に呼ばれまして、「お前、教養がないから行ってこい!」と有無を言わさず送り込まれたのが、[AIDA]でした。東日本大震災があった年ですから、2011年ですね。

――「日本と日本のAIDA」というテーマの第7期ですね。

須藤:ええ。参院議員の鈴木寛さん(現・東京大学公共政策大学院教授)や元外務省主任分析官の佐藤優さんがゲストでした。31歳の時の参加だったのですが、当時の[AIDA]の受講生は、自分より年上の方ばかりでした。

峰岸さんの「教養がない」発言に少し反発心もありながらの参加だったのですが、第1講の松岡正剛塾長(現・座長)のソロ講義にやられました。日本語を喋っているのに、何を言っているのかほぼわからない。そこでは、自分が普段使っているビジネス言語とは異なる言葉が飛び交っていました。必死にノートをとるのですが、ノートを読み返してもわからない。自分はこれほど頭が悪いのかと愕然としました。その時、びっしょりと脇汗をかいたことを今でも覚えています。

――強烈な体験だったのですね。

須藤:そのあと、受講生のみなさんとお酒を飲みにいったのですが、そこで「自分はついていけない」「このまま落ちこぼれて挫折する」と弱音を吐露しました。すると、何回目かの参加者の方達が「俺もそうだった。気にするな」と言ってくれましてね(笑)。

――どう乗り越えられたのですか?

須藤:ビジネスシーンだと、わかっていなくてもわかった風を装うことがあります。[AIDA]では、そんな小手先は通用しません。だから開き直ったんです。根本的に太刀打ちできないのだから、受け入れようと。着飾っていた服を脱ぎ捨て、ついでにパンツまでに脱いじゃった(笑)。わからないことは「わからない」といえばいいし、「どういうことですか?」と聞けばいい。未知への恐れを捨てました。自分が今思っていること、考えていることをそのまま言葉にしようと思ったんです。これで随分、気が楽になりました。

 

2011年、ハイパーコーポレートユニバーシティ「日本と日本のAIDA」第4講。ゲストは佐藤優さん(2020年からHyper-Editing Platform[AIDA]のボードメンバー)。

松尾芭蕉はカイゼンの先駆者

――「日本と日本のAIDA」でいちばん印象に残っていることは何ですか。

須藤:第3講の合宿で、震災後の東北・平泉を訪れたことです。民俗学者の赤坂憲雄さんや歌人の小池純代さんがゲストでした。ここで中尊寺金色堂に伝わる「中尊寺建立供養願文」の実物を見て、解説を聞いたのですが、この中の一文は今のSDGsやユニバーサルデザインを先取りするものでした。意訳すると「寺の鐘の音は、生きとし生けるものすべてにあまねく平等に響く」とあったのです。

平将門を討って東北地方を治める鎮守府将軍に任命されたのは藤原秀郷ですが、関東・東北には、その流れを汲む「藤原北家秀郷流」を名乗る一族が多い。金色堂を建立した奥州藤原氏もそのひとつです。実は「須藤」も、「那須の藤原北家秀郷流」の一族が須藤と称したと言われていて、奥州平泉は、自分のルーツとも重なってくる経験でした。私の祖先はその後、青森から北海道に渡ったそうです。奥州藤原氏とアイヌが長い歴史の中で、融合していったという事からも私の中にもアイヌの血も流れているのかもしれません。

私自身が直接的に差別を受けたという経験はないのですが、理不尽なことに対する怒りの感情が幼い頃からありました。第3講合宿で、自分の出自について身をもって辿ることになり、さらに「中尊寺建立供養願文」を知った時に、ビジネスにおいて目指す方向が見えた気がしました。

――どういうことですか?

須藤:ある意味フラットなところで勝負したい、ということです。例えば、アメリカのシリコンバレーは、非常にフラットなんですね。本人次第で裸一貫でも戦える。

リクルートに入社していつからか、「35歳までにIT系の経営者になってグローバルに活躍する」と言い続けていたのですが、今のままだとそれは叶わない。だったら独立して、フラットな米国で一旗揚げよう。そう考えたんです。[AIDA]の同期に、海外赴任経験者や海外支店長候補がたくさんいたことも刺激になりました。

それまでも海外で仕事をしていましたが、欧米のビジネスマンと勝負する際、自分のアイデンティティが揺らぐんです。「日本」や「日本文化」についての理解という自らの土台がないので、本当のところで共にビジネスをする仲間として認められていない感覚もありました。[AIDA]で学び、「日本」について自分なりにもっと深めたいと思うようになったのです。

独立するとなった時に、峰岸さんからは「リクルートの看板で、米国で起業すればいいじゃないか」と言っていただいたのですが、最初から下駄を履いていては面白くありません。身ひとつで勝負したいとわがままを通しました。峰岸さんから送り出される際、「世界が日本を求める時が来る。日本を売りにしたらどうか」とアドバイスをいただき、これが[AIDA]体験とも重なって、社名の決め手となりました。

――それが「Kaizen Platform」。

須藤:ええ。トヨタで有名な「カイゼン」ですね。「フジヤマ」「ゲイシャ」も候補にあったのですが、「カイゼン」に落ち着きました。例えば、Google社のトイレには「Kaizen」と書かれた紙が貼ってあります。それぐらい、米国で「Kaizen」は浸透している日本生まれの考え方です。

「カイゼン」とは、端的にいえば、細部に目を配り、物事をより良くしていくことだと思うのですが、こうした方法は、トヨタの専売特許ではありません。日本文化には、「カイゼン」がある。

 ――詳しく教えて下さい。

須藤:[AIDA]で学んだことです。平泉ではみんなで和歌を詠んだり、[AIDA]講義で松尾芭蕉を取り上げたのですが、芭蕉の句作のプロセスはまさに「カイゼン」でした。例えば有名な「古池や蛙飛び込む水の音」。この句に着地するまでに「山吹や蛙飛んだる水の音」「古池や蛙飛んだる水の音」……という試行錯誤があったことを知りました。

私たちは「芭蕉は天才」と片付けてしまいがちですが、パッと句が浮かんだのではなく、推敲を繰り返していた。芭蕉の俳句は、いわば推敲=プロセスのドラマだったのです。私が今、ビジネスで重要視しているのもこのプロセスです。カイゼンによる数字や結果ももちろん大事ですが、カイゼンするプロセス、プロセスのドラマにこそ、ビジネスの面白さがあります。

ハイパーコーポレートユニバーシティ7期「日本と日本のAIDA」第3講の合宿。平泉文化遺産センター、中尊寺などを会場に、東北と日本のあいだをめぐった。

 

ビジネスリーダーには「成熟=深さ」が必要

――Kaizen Platformの立ち上げ後、社員の方を何人も[AIDA]に送り込んでくださいました。なぜ[AIDA]を社員の研修先に選ばれたのですか。

須藤:ビジネスの世界は論理で成り立っていて、ブロックを積み上げるように仕事も組み立てていきます。これを突き詰めれば、結果が出る世界です。こうしたスキルはビジネスで必要ですが、いくら成果を得たところで、「いったい何のためにやっているか?」という問いが残ります。そうした「答えのない問い」に向き合い続けなければならない時代になりましたよね。だからこそ必要なのは、教養であり、人間力だと思うんです。

 私は、ビジネスにおいて、結果はもちろんですが、試行錯誤したプロセスを大事にしたい。プロセスにこそ、その人や組織やサービスの哲学や世界観が滲み出ます。もしくは独自のドラマやストーリーとなって、人を惹きつけるものになる。優秀なメンバーは論理的思考やテクノロジースキルを充分に備えてますし、自ら高めていく意欲があります。[AIDA]では、自らの人間力を高め、プロセスを大事にする価値観や目を養ってもらいたいんです。私のように、自分のルーツを探る体験にもなったら最高ですね。

――AIDA]が目指すものはまさに、次世代のリーダーとこれからの社会像を問い続ける場です。

須藤:ビジネスリーダーに必要なのは、「成長」と「成熟」です。スキルや組織の成長が大事なことは言うまでもありませんが、右肩上がりの成長だけでなく「深さ」が必要です。深さとはつまり、成熟ですね。昨今飛び交っている、サスティナビリティやコンプライアンスを無批判に受け入れるだけではだめなんです。問題を設定し、どうしていくかを思考し、掘り下げていかなければなりません。それには、人間としての成熟が必ず必要になってきます。これも[AIDA]で教わったことです。

 

[AIDA]受講者インタビュー

vol.1 奥本英宏さん(リクルートワークス研究所所長) 
vol.2 中尾隆一郎さん(中尾マネジメント研究所代表)
vol.3 安渕聖司さん(アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社代表取締役社長兼CEO)
vol.4 山口典浩さん(社会起業大学・九州校校長)
vol.5 土屋恵子さん(アデコ株式会社取締役)
vol.6 遠矢弘毅さん(ユナイトヴィジョンズ代表取締役)
vol.7 濱 健一郎さん(ヒューマンリンク株式会社代表取締役社長)
vol.8 須藤憲司さん(Kaizen Platform代表取締役)

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