Season 2   第2講

メディアのしたたかさ、市場のアナキズム

2021.11.13

「市場とメディアのAIDA」をめぐるシーズン2。第2講では文化人類学者の松村圭一郎氏と小川さやか氏をゲストに迎え、市場とメディアの大前提を問い直す。
 

「大切なのは仲間の数じゃない、〔タイプのちがう〕
いろんな仲間がいることだ」とカラマは言う。
ー小川 さやか『チョンキンマンションのボスは知っている 』

だれもがとらわれている前提を問いなおし、
自分たちの生活のなかの埋もれた潜在力をほりおこす。
それが「くらしのアナキズム」の目指す地平である。
ー松村圭一郎『くらしのアナキズム』
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 カール・ポランニーは「かつて経済は社会に埋め込まれていた」と言った。いまや経済の中に埋め込まれてしまった社会にあって、私たちはいかにして「市場」の本来性を捉え直すといいか、またそこに動く「メディア」の本質にどうすれば迫れるか。
 第2講は、文化の諸相から人類の営みを読み解く文化人類学の視点から、「メディア」と「市場」のおおもとを探る。エチオピアの「市場(いちば)」の風景、贈り物でつながるニューギニアの「クラ交換」、香港で独自のインフォーマル経済社会を築くタンザニアの路上商人たち……。そもそも人は、なんのために市場やメディアを社会に埋め込んできたのか。国家、市場経済、資本主義社会など、無条件に受け入れている前提を問い直し、自らの生の活力を取り戻そうとする、ひとりひとりのアナキズムが問われる第2講となった。

●課題図書
松村圭一郎『くらしのアナキズム』(ミシマ社 2021)
小川さやか『チョンキンマンションのボスは知っているーアングラ経済の人類学』(春秋社 2019)

●プログラム

13:00〜 オープニング フラッグメッセージ
13:55〜 松村圭一郎 ソロセッション
15:15〜 『情報の歴史21』レクチャー
15:35〜 小川さやか ソロセッション
16:55〜 松村圭一郎 × 小川さやか × 松岡正剛 鼎談セッション
18:00〜 AIDAセッション(全員参加)

シーズン2 第2講フォトレポート

オープニング フラッグメッセージ

『遊』創刊号を手にする[AIDA]プロデューサーの安藤昭子(編集工学研究所専務取締役)

「半世紀前、松岡座長はこの『遊』で編集をスタートした。『遊』という文字には『ここではないどこかへ出遊する』という意味がある。遠い土地に渡り、現地の人と交わり、学び、そこから人類と文化を考えようとするお二人の探究者としての姿から大いに学んでほしい」。プロデューサーの安藤が2人のゲストを招きいれて、文化人類学をめぐる第2講が始まった。

 

エチオピアの市場と香港のチョンキンマンションの風景。松村圭一郎氏と小川さやか氏がそれぞれ現地で撮影した写真が、本楼の本棚に飾られた。

 

講義の本棚。『チョンキンマンションのボスは知っている』(小川さやか)、『くらしのアナキズム』(松村圭一郎)はじめ、ゲストの著書が並ぶ。

 

松村圭一郎 ソロセッション

文化人類学者 松村圭一郎氏

エチオピアの農村社会などでフィールドワークを続け、富と暮らしと社会と国家のあいだを研究する文化人類学者・松村圭一郎氏によるソロセッション。国家を持たない社会が秩序を保つために、重要なメディアは「贈り物」だった。ニューギニア諸島で行われるクラ交換や、エチオピアの市場における贈答と商品の違いを例に挙げ、経済人類学からの視点を語った。

 

『情報の歴史21』レクチャー

編集工学研究所 吉村堅樹

シーズンを通しての課題図書でもある『情報の歴史21』。編集長の吉村による読み解きレクチャーでは、1640年から1730年にかけてのコーヒーハウスの興亡を辿る。クラブとサロンの視点から、市場を生むメディアが世界に与えた影響を案内した。

 

小川さやか ソロセッション

文化人類学者 小川さやか氏

タンザニアの路上商人や香港・チョンキンマンションの商人たちのインフォーマル経済を研究する小川さやか氏。「ずる賢さ(ウジャンジャ)」と独特のモラルを併せ持った商人たちが築くネットワークの様相を案内した。騙し合い、助け合いながら、融通を働かせ市場を回す姿を、J.C.スコットの「アナキズム柔軟体操」と重ねて語る。

 

松村圭一郎 × 小川さやか × 松岡正剛 鼎談セッション

インフォーマル経済とアナキズムをめぐって繰り広げられた鼎談。インフォーマル経済の土台になっているのはお互い様の保証のなさ。その根本を辿ると生命の不確実性に行き着く。リスクを避け確実性を欲する日本にこそ、セーフティネットとしてインフォーマル経済領域が必要だと語られた。

 

AIDAセッション

車座になり意見を交わし合ったAIDAセッション

全員参加のAIDAセッションでは、座衆の問題意識をもとに密度のある交感が行われた。「タンザニア商人のネットワークのような水平のヨコ型組織と、大企業的なヒエラルキーのタテ型組織。これらのバランスの取り方についてどう考えたら良いか」。

松岡座長はコンプライアンスを強化する社会へ苦言を呈し、第2講を締めた。「日本企業内のアナキズムは、コンプライアンスと内部統制によって失われた。タテの統制を重視しすぎたために、ヨコの繋がりが希薄になっている。横着、横柄、横取り、横議横行……。日本では“横”のイメージが良くないが、私たちはいま“横”と“ムダ”をあえて大事にすべきではないか」。エチオピアの人々や、香港のチョンキンマンションの住人に学ぶべきことは多い。

 

 

◀︎ 第1講 「メディアと市場のAIDA」始動 

第3講 わたしと世界のあいだの「事件!」 ▶︎

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