Season 2   第3講

わたしと世界のあいだの「事件!」

2021.12.11〜2021.12.12(2日連続)

 第3講では、“現在美術家”宇川直宏氏率いるライブストリーミングチャンネル「DOMMUNE」を、AIDA一行がまる2日間ジャックした。会場となった渋谷PARCO9階のスタジオに、松岡正剛座長・AIDAボードの武邑光裕氏・田中優子氏・佐藤優氏、そして座衆たちが詰めた。
事件とは、世界の内側で起きるものではなく、われわれが世界を知覚し、
世界に関わるときの枠組みそのものが変わることである。
ースラヴォイ・ジジェク『事件!:哲学とは何か』
 座集はこの日、観客ではなく「15分だけの主役」になる。宇川氏と吉村堅樹(編集工学研究所)のナビゲーションの元、思い思いにビジュアライズしたクロニクルを背景に「自分史」を語る。題してHYPER HISTORY in FORMS of SUPER GENERAL。「人はだれでも面白い。面白くないとしたら、面白がり方が足りないだけ」という宇川氏が、次々と登壇する座衆の「事件!」を引き出していく。30人の物語を、8000人のDOMMUNEユーザーが同時視聴した。
 宇川氏も師事したAIDAボードメンバー・武邑光裕氏をゲストに迎えての対談では、80年代の芝浦から中世ヨーロッパまで、縦横無尽のメディア論が繰り広げられた。AIDAボードを交えての「“自分=メディア”体験」が、座衆を「メディアと市場のAIDA」に投げ入れる。

●事前課題

  1. 自分が生まれた年から現在までの「自分史」クロニクルを制作。
  2. 自分にとっての「事件!」となった1年(キーイヤー)を選ぶ。選んだキーイヤーの「情報の歴史21」のページを読み込み、どんな時代や世の中の動向があったのかを気づきやつながりまとめる。
  3. 「自分史クロニクル」を1枚のペーパーにグラフィカルにまとめる。

 

  ●プログラム

DAY 1
13:00〜 オープニング
13:25〜 宇川直宏 × 松岡正剛 対談セッション
14:30〜 [HYPER HISTORY in FORMS of SUPER GENERAL]part① with 田中優子
19:30〜 DJセッション
DAY 2
13:00〜 オープニング
13:20〜 宇川直宏 × 武邑光裕 対談セッション
14:25〜 [HYPER HISTORY in FORMS of SUPER GENERAL]part② with 佐藤優、武邑光裕
19:00〜 DJセッション
19:40〜 宇川直宏 × 武邑光裕 × 佐藤優 × 松岡正剛 最終講義  

Season2 第3講フォトレポート

DAY 1 オープニング

2日間にわたる[AIDA]第3講は、SUPER DOMMUNEスタジオ(渋谷PARCO9階)にやってきた。オープニングは、DOMMUNEの宇川直宏氏と編集工学研究所の吉村堅樹(『情報の歴史21』編集長)のトークから。今回は、[AIDA]がDOMMUNEの番組としてライブ配信される。背景に投影されている番組のタイトルグラフィックは、デザイナーでもある宇川氏自身がつくったもの。 

DOMMUNEの番組案内「HYPER HISTORY in FORMS of SUPER GENERAL」from Hyper-Editing Platform [AIDA]  

 宇川直宏 × 松岡正剛 対談セッション

宇川氏と松岡座長との対談では、DOMMUNEの即興性をめぐって「偶発的事故を味方につける」という宇川イズムが浮き彫りになった。リスクをともなうライブ形式を貫くDOMMUNE。その意図を問われると宇川氏は「現場至上主義」を常に残しておきたいと答える。「メタバースなどバーチャルな世界が盛り上がっている今、逆にフィジカルの価値が高まっている。だからこそ、フィジカリティとの向き合い方というものを、常に表現軸の片隅に置いておきたい」。

[HYPER HISTORY in FORMS of SUPER GENERAL] Part①

座衆1人あたり15分の「自分史クロニクル」が番組として配信された。 背景の大モニターには自作のクロニクルが投影される。

HYPER HISTORY in FORMS of SUPER GENERAL と銘打った「自分史語り」プログラムでは、[AIDA]座衆がそれぞれ「自分史クロニクル(年代記)」を持ち寄り、キーイヤー(自分史の中で特に重要な意味を持つ1年)に起こった出来事から自分自身の半生を語った。「人は誰でも面白い」という宇川氏の言葉に共鳴するように、DOMMUNE視聴者からも座衆たちの自分史列伝に大きな反響があった。
途中、ボードメンバーの田中優子氏(江戸文化研究者)も登場。キーイヤーには、大学に入学した1970年を選んだ。「三島の自決と70年安保、学生運動の退廃。いろんなことが終わった年だったけれど、自分にとってはここから人生が始まる年だった」。 

AIDA座衆によるDJセッション

Day1 の締めくくりは、DOMMUNEの流儀でDJセッション。[AIDA]座衆代表の2人の選曲で、坂本九「明日があるさ」やThe Weeknd I feel it coming」などがプレイされ、どこか懐かしいリズムに包まれて1日目が終了。  

DAY 2 宇川直宏 × 武邑光裕 対談セッション

Day2はボードメンバーの武邑光裕氏(メディア美学者)と宇川直宏氏の対談でスタート。武邑氏は、現在のソーシャルメディア時代は中世とよく似ていると言う。

80年代の後半にウンベルト・エーコが、われわれは完全に中世に向かっていると早々に指摘しました。現在のシェアリングエコノミーというのは、かつての君主と農奴の関係。完全に中世です。このようにどんどんオーナーシップがなくなる時代において、暗号コミュニティが隙間を縫うようにして作ったのがNFTです。NFTの世界では、再びアグリゲーション(集約)が起こるでしょう。集約したコンテンツを人に届けるための仲介的な編集作業が必要になってくるはずです。そのアグリゲーションは大規模プラットフォーム型ではなく、もっと小規模でコアなグループを単位とする方向へと進化したものになるのではないでしょうか」。

[HYPER HISTORY in FORMS of SUPER GENERAL] Part②

HYPER HISTORY in FORMS of SUPER GENERAL Part2

Day2も引き続き、座衆のめくるめく「自分史クロニクル」が続く。途中、ボードメンバーの佐藤優氏(作家)も登場。佐藤氏のキーイヤーはソ連が崩壊した1991年。「バーチャルリアリティにかけて言えば、ソ連は存在そのものがフィクションだった」と、解体前夜のソ連現地で自分史と歴史的転換が重なっていたことを振り返った。

[AIDA]座衆によるDJセッション

DJ

Day2もまた鳴り響く [AIDA] DJ達のプレイ。2日間のラストに向けて会場を盛り上げる。DOMMUNEDJ史上初であろう長渕剛「Captain of the Ship」や加川良「教訓 I」に、DOMMUNEのツイッタータイムラインもざわめいた。

「宇川×武邑×佐藤×松岡」最終講義

2日間を締め括る大トリは「宇川氏×武邑氏×佐藤氏×松岡座長」による最終講義。“排出”と“休息”をキーワードに、自分史を振り返るという行為の重要性が語られた。

4人セッション

「情報が加速度的に増えてくると、一番大事なのは“排出”だと思うのです。私の場合はいま腎臓が悪くなってそれを実感しているわけですが、今の急速なAI化でうろたえているのを見ると、データを溜めてばかりで慢性腎臓病になってる状態じゃないかと思います」と佐藤氏が指摘。

松岡座長は「生命はエントロピーの排出によって維持されている」として、シュレディンガー、ノーバート・ウィナー、ロス・アシュビー、グレゴリー・ベイトソン、バタイユなどの名前を挙げた。「グローバルキャピタリズムの中で、何を捨て、何を取り込むかの仕組みができていない。最小多様性だけのこしてガンガン捨てるべきだ」。

「『聖書』では天地創造の後、7日目に神はお休みになられた。時には退行すらしながら自分史を振り返るという行為は、“排出”であり、“休息”でもあります。みなさんはこの2日間、よく休みました」という佐藤氏の言葉でエンディングに向かう。

宇川氏と松岡座長の「良き休息を!!!」の掛け声で幕を閉じたHyper Editing Platform [AIDA] Season2 3講。現場にも番組視聴者にも深い余韻を刻み込む「事件!」に満ちた2日間となった。

◀︎ 第2講 メディアのしたたかさ、市場のアナキズム

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