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社長コラム「連編記」vol.1「間」:語るべきことは、語り得ない「あいだ」にある

2023年8月より、「編集工学研究所 Newsletter」の配信を開始しました。こちらでは、同 Newsletterでお届けする代表・安藤昭子のコラム「連編記」をご紹介します。一文字の漢字から連想される風景を、編集工学研究所と時々刻々の話題を重ねて編んでいくコラムです。

 

「連編記」 vol.1

「間」

語るべきことは、語り得ない「あいだ」にある

 

 

コロナ禍、デヴィッド・グレーバーの『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』(岩波書店)がたいへん話題になりました。みんながうすうす感じていた「仕事をめぐる不都合な真実」とそのメカニズムを、人類学者・グレーバーの鋭利な切込みによって白日のもとに晒した快著です。リモートワークへの移行もあいまって、多くの人々の仕事観を揺らしました。

本書が日本に紹介される3か月ほど前、『民主主義の非西洋起源について:「あいだ」の空間の民主主義』という小ぶりな一冊が以文社から刊行されていました。120ページほどのグレーバーにしては短い論考ですが、これもまた現代人の通念をひっくり返そうとするような挑戦的な書です。 

原題は「There Never Was a West」、そもそも「西洋」など存在したためしはないとして、副題には「Or, Democracy Emerges From the Spaces in Between」、民主主義は「あいだ」から創発してきたものだと添えられています。民主主義の起源はアテネにあるのではなく、国と国、文明と文明、共同体と共同体のあいだの混淆の中から生起してきたもの。故に、本来「民主主義」と「国家」は折り合わない。さらに、今日私たちが経験しつつあるのは民主主義の危機ではなく、むしろ国家の危機なのであると、グレーバーは説いていきます。 

 

“民主主義は今、それが当初生まれた場所に帰りつつあるように見える。
 つまり、あいだの空間に” 
  −『民主主義の非西洋起源について:「あいだ」の空間の民主主義』 

 


国家のような安定を目指す「枠組み」ではなく、ゆらぎこそが実態のような「あいだ」に根を張るべき民主主義とは、どういう姿をしているものでしょうか。グレーバーは、読者の想像力を挑発するように、「あいだ」という難問を残して筆を置いています。
 


 

日本には古来、「間(あいだ・ま)」の文化が根付いてきました。「間」は空間的には「あいだ」、時間的には「いとま」。時空間を同時に捉え、その何かと何かの間の状態を指すものです。 ジャック・デリダが「差延(さえん)」と名付けたような概念を、日本では「間(ま)」として身体感覚に備えてきました。間に合う、間が悪い、間が持たない、あっという間、間に合わせ……。納会や宴会の「中締め」として行う手締めの「イヨーッ、ポン」、どんなに大勢でもたいてい気持ちよく「ポンッ!」と揃います。アメリカ人にこれをやってもらうと、「イヨー(ワン・ツー・スリー)ポン」とあいだの拍をカウントする。日本人はこれを「間合い」で取っている。そういう身体感覚です。 

編集工学研究所では、こうした「間」というコンセプトを中心に据えたビジネスリーダーのための学びのプラットフォームを毎年展開しています。その名も「Hyper-Editing Platform[AIDA]」。20年程前に「松岡正剛に学びたい」という三菱商事とリクルートの有志の方々の声がけで始まった、企業人と各界エキスパート達の一座です。去る8月8日、普段は伏せられているこの[AIDA]が、一夜限りの公開イベント「AIDA OP(アイダオープン)」として催されました。
 

編集工学研究所 Newsletter



「間とはなにか、なぜわれわれは間を考えるのか」、一座を支えるAIDAボードメンバーのみなさんと、さまざまに「間」をめぐる見方を交わしました。

 

「間(ま)」のような時間と空間を含有している概念がヨーロッパにはない。長谷川等伯の松林図屏風の余白のような「描かれない空間」を、ヨーロッパでは「ネガティブスペース」と言います。(メディア美学者・武邑光裕さん)

 

「ない」という状態が「ある」と捉える日本の「間」感覚は、たいそう翻訳が難しい。「間(ま)」は経路・プロセスと考えると通じやすくなるそうです。 
 

二人以上集まると「世」というが、それらが重なり合っているものを「世間」と言う。「世間」の全体は見えないけれど、私たちは「間」で「世」を感じあっている(江戸文化研究者・田中優子さん)

 

グレーバーの言う「あいだから創発してくる民主主義」が、江戸の浮世にはそこかしこで躍如していたそうです。 
 

語り得ないことほど、語るに足る。そこにあるのがまさに「間」です。こうした日本の概念には西洋のスタンダードをひっくり返すポテンシャルがある(社会学者・大澤真幸さん)

 

日本人が無意識に抱える見えない資産を、胸を張ってグローバルに持ち出すべき、と大澤さんは指摘します。 

どこを見渡しても混迷を極める現代、容易には語り得ないこの「間(あいだ・ま)」というコンセプトは、私たちの思考を力強く前に進めるひとつの器になるものと思います。 

編集工学研究所では、今年も10月からHyper-Editing Platform[AIDA]シーズン4が始まります。今季のテーマは「意識と情報のAIDA」。どんな語り得ない「あいだ」が姿を現しますか。またいずれこちらでも、一端をご報告できればと思います。

 

安藤昭子(編集工学研究所 代表取締役社長)

 


編集工学研究所からのお知らせ

世界の「あいだ」に切り込む半年間、
Hyper-Editing Platform[AIDA]シーズン4「意識と情報のAIDA」
お申込受付中

 

ビジネスリーダーのための学びのプラットフォーム「Hyper-Editing Platform[AIDA]」が、今年も10月から開講します。

生成AIの躍進をはじめとした技術革新が加速度を増す昨今、「人間とは何か」「生とは何か」といった根源的な問題を、誰もが身近な問いとして抱えざるを得ない時代になりました。
AIDAシーズン4のテーマは「意識と情報のAIDA 」。メディアアーティストの落合陽一さん、人工意識研究者の金井良太さん、現代芸術家の森村泰昌さん等をゲストに迎え、脳と心、自己と身体、意識と精神、技術と自然、宗教と認知、といった我々の内外に出入りする問題群と、それらの「あいだ」に多様な角度から切り込んでいきます。

あと数席お席がございます。ご参加をご検討の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
→ Hyper-Editing Platform[AIDA]公式サイト

 

Hyper-Editing Platform[AIDA]season4

 


一夜限りの「あいだ」の祭典「AIDA OP(アイダオープン)」(2023/8/8開催)
見逃し配信のご案内

2023年8月8日、一夜限りの[AIDA]祭りが開催されました。普段は受講者のみに閉じられた場であるHyper-Editing Platform[AIDA]で何がどのように交わされているのかを、武邑光裕さん、田中優子さん、大澤真幸さんらAIDAボードメンバーの見方を交えて交わし合いました。
イベントにご参加いただけなかった方も、見逃し配信をご覧いただけます。
→ 「AIDA OP」見逃し配信

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