大澤真幸が語る、いまHyper-Editing Platform [AIDA]が必要とされる理由

レポート

Hyper-Editing Platform[AIDA]は、次世代リーダーたちが分野を超えて、新たな社会像を構想していく「知のプラットフォーム」です。編集工学研究所がお送りするリベラルアーツ・プログラムとして、20年にわたり開催されてきました。

毎期、「生命と文明のAIDA」から「日本語としるしのAIDA」「意識と情報のIDA」など、さまざまな「あいだ」に注目し、各回の著名人をゲストに迎えながら、世界を捉えなおしています。

なぜ[AIDA]には、日本を代表するビジネスリーダーたちがこぞって集い、学んでいるのでしょうか。

ここでは何が得られるのでしょうか。2025年4月24日に、その一端を公開する特別イベント「AIDA OP(アイダ・オープン)2025」が開催されました。同イベントには、[AIDA]ボードメンバーを務める社会学者の大澤真幸さんが登壇。大澤さんが語った、[AIDA]という場がもつ可能性とは。混迷の時代だからこそ、この場に集う意味とは。この記事では、その一部をご紹介します。

大澤真幸(社会学者)

1958年、長野県生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。社会学博士。専門は理論社会学。千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。現在、月刊個人思想誌『大澤真幸THINKING「O」』刊行中、「群像」誌上で評論「〈世界史〉の哲学」を連載中。2007年『ナショナリズムの由来』(講談社)にて第61回毎日出版文化賞(人文・社会部門)。12年『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書、共著)で新書大賞2012大賞。15年『自由という監獄 責任公共性・資本主義』(岩波書店)で第3回河合隼雄学芸賞。

 

大澤真幸「答えは[AIDA]にある」

大澤真幸さんは[AIDA]に大きな期待を寄せています。

「僕らは『持続可能性』をわざわざ目標に掲げなくてはいけない世界を生きている。と、いうことはどういうことか?  普通に、今までと同じ「成功」を求めていれば、滅びる(持続しない)ということ。ならばどうすればよいのか? 答えは[AIDA]にある」。

大澤さんはこう断言します。

「通常のセミナーや勉強会であれば、なんらかのテーマについて教わります。すでに蓄積されているルールや知見を伝授されるというわけです。しかし、[AIDA]は違います。世界の一部に対して詳しくなるのではなく、世界全体の見え方が変わる特異な場です」

[AIDA]は、「何か」という主題について学ぶのではなく、常に何かと何かの「あいだ」を考えます。「メディアと市場のあいだ」や「型と間のあいだ」など、つながりが見えそうで見えない未知なる「あいだ」に注目することで、既存の領域の知を深めるというより、世界そのものの構成を見直すことができます。

持続可能性が叫ばれる世界、つまり、このままのルールは持続可能ではないと判明してしまった世界においては、「あいだ」を考える思考法こそが突破口になりうるのです。

いまの日本人は「過去と未来のAIDA」を生きていない

アメリカの政治学者エリカ・チェノウスの推計によると、21世紀に入ってからの20年間で起きた「市民的抵抗(civil resistance)」は、20世紀の100年間に起きた合計よりも多いといいます。世界に目をやれば、地下鉄運賃値上げに反対するデモから、BLM(ブラック・ライヴズ・マター)や「#MeToo」運動まで、さまざまな抗議活動が見られます。しかし、日本ではどうでしょう。21世紀になって、とくにデモが増えたようには感じられません。世界では、この世界の持続可能性について危機感を感じている人が顕著に増えてきているのに、日本人はどうやら危機感が薄いのです。

なぜ、日本だけが例外的な状況なのでしょうか。そんな問いに、大澤さんはこう答えます。「私たちは、過去と未来のAIDAを生きていないのです」と。

「私たちがこのままの生活を続けたら、人口激減や核戦争などとてつもない破局が起こるかもしれません。けれど、被害を確実に受けるのは、私たちが死んだあとの世代です。日本人が持続可能性に対する危機感が薄いというのは、言い換えれば、〈未来の他者〉についてほとんど想像できないということと同じです」。

「未来への想像が及ばないのは、過去と断絶してしまっているからです。80年前、日本はたいへんな間違いを犯しました。それは誰しもが知っています。敗戦によって『戦争で死んでいった人たちの思いを継いでいこう』と考えてはいけない状況になりました。その後今に至るまで、日本は過去との折り合いがつけられずにいます。過去から未来へと何世代も続いていく『我々』という感覚がもちにくくなったのです」。

世界を見渡す視点がない。だからこそ「AIDA」が必要

過去とも未来とも断絶してしまった日本人。世界にコミットメントしたくても、どう関わっていけばよいかわからないというもどかしさを抱えています。そんな状況だからこそ、大澤さんは「AIDA」が重要だと語ります。

「いまは、確実に正しいといえる思想がない時代です。冷戦時代であれば、資本主義か共産主義かという選択肢がありました。その視点によって、世界を現在から未来まで一貫して見渡すことができました。けれど、今は既存の思想を選んでもどこかピンとこない。だから『あいだ』が必要なのです。[AIDA]は、世界を見るときの視点を提供してくれます」。

大澤さんは、具体例として、黒部第四ダム(富山県)と浜岡原発(静岡県)を比べながら語ります。高度経済成長期には、黒部第四ダムが象徴するような水力発電所をつくることは日本のため、世界のためになると自明のことでした。しかし、原子力発電所はどうでしょう。水力発電所と同じように苦労しながら建設したのにも関わらず、のちになって「この原発には意味があったのだろうか」という疑念が生じてきました。実際、人生を賭して浜岡原発の設計に関わっていた人が、3.11の直後にいますぐ原発稼働を止めてほしいと陳情に行った話があるといいます。

つまり、いまは、一人ひとりの人生においても「この立場を取っておけば安心」といえるような立ち位置が見つかりにくい時代なのです。だからこそ、大澤さんはこう述べるのです。

「ひとりの人間が意味のある人生を送るためにも、自分が世界をどういうポジションから見ているか、そして何をすべきかをはっきりさせる必要があります」。

「日本という方法」を取り戻すために

大澤真幸さんのお話の後、「AIDA OP」に続いて登壇した[AIDA]プロデューサーの安藤昭子(編集工学研究所代表)は、こう語りました。

「私たちは、『自分はいったい何を考えるべきか』を考える時代に来ています」。

試行錯誤して、目標に向かって全力で進んでみたものの、これでよいんだろうかとときに立ちすくむようなそんな時代。世界全体が、このままではダメだと気づき始めた時代。こんなときこそ、近代以降の世界が画一的に採用してきた西洋型モデルとはまったく異なる「日本という方法」が求められているのかもしれません。

[AIDA]では、2024年から3年間にわたって「日本」をテーマに据え、掘り下げています。2025年10月から始まるseason6のテーマは「座と興のAIDA」。日本は、長らく「座の文化」をもってきました。人々が集い、関係のなかで新たなものを生み出すことを得意としてきたのです。

デジタル技術がこれほど発展した世の中においてなお、私たちはなぜ、物理的な「場」に集うのか。日本は、「座」という仕組みを通して何を創発してきたのか。「地域」や「会社」といったこれまでの集まりを問い直し、これからの未来社会へ向かううえで避けては通れないテーマです。

安藤は言います。
「世界において『日本という方法』は、非常に大事な資産である可能性があります。私たちの身体感覚に残っている『日本という方法』を取り戻すことが、この地球に資する使命かもしれません」。

戦後80年、昭和100年にあたる2025年。敗戦を経て、過去とも未来とも断絶してしまった私たちが、「日本という方法」をどう取り戻していくか。

Hyper-Editing Platform[AIDA] season6「座と興のAIDA」という場を共にしてくださる皆さまのご参加を、お待ちしています。

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レポート:梅澤奈央
編集:山本春奈、仁禮洋子

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