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[トピックス] 2012年12月30日
[レポート]ISIS年末きらきら本景色
◇ 知の夢殿ついに世田谷に出現 ◇

師走の風がふく12月中旬、編集工学研究所のワークスペースが赤坂稲荷坂から世田谷赤堤通りに移転しました。6万冊の書物とともに、さらに広々とした新天地へ。初冬の凛とした空気のなか、あらたなる知の夢殿が少しずつその全貌を明らかにしつつあります。
小田急線の豪徳寺駅、および世田谷線の山下駅を最寄りとすることから、新しい仕事場は「ゴートクジISIS」(ISISビル)と呼ばれています。見どころは、4メートルの天井高を有する1階のオープンスペースと趣向を凝らした玄関口。松岡正剛が人々を"ほんろう"したいという思いで名づけたオープンスペース「本楼」では、万巻の書物が四方の壁面を覆い、本棚によって組み立てられた高台(ステージ)が前後に設置されています。6WのLED照明が演出するこの「本楼」では今後、多種多様なイベントが催される予定。すでにスタッフからは、本のトークショー、本の音楽会、本の芝居、本のオークションなど、さまざまなアイデアが提案されています。
もうひとつの見どころである玄関口は本の茶室「井寸房」(せいすんぼう)と名づけられ、方丈の庵のような4畳半の空間全体に素木づくりの本棚が組まれています。エントランスにあたるこの部屋には、古今東西の全集や美術全集、豪華本や特装本がディスプレイされる予定です。

赤堤通りに面したゴートクジISISビル

「本楼」(1F:オープンスペース)。本に囲まれたイベント空間。

「井寸房」(1F:エントランス)。茶室に見立てた素木の四畳半スペース


◇ 一册一声「本楼」語り ◇

「この空間でテスト収録してみよう」。12月20日の夜間、松岡の合図のもと、セイゴオ千夜語り「一册一声」の収録が行われました。今後、イベント会場としてこの場所を利用するための試験もかねて、本棚劇場「本楼」の大舞台をフル活用しての音声収録です。
セイゴオ千夜語り「一册一声」は、テキスト版「千夜千冊」の過去アーカイブから、松岡正剛がいまそのときに伝えたい数夜を選び、自らが読み、解き、心のおもむくままに語る音声コンテンツ。4月にオープンした編集工学研究所の有料サービス、オーディオWebマガジン「方」のなかのメインコンテンツとして、すでに18回分がバックナンバーとして公開されています。
いつもは音声のみでの収録ですが、この日ははじめて映像つきの収録が試みられました。おなじみの「連塾」でも使用された特注のディレクターズチェアに腰掛けた松岡をかこみ、ゆったりとした時間が流れていきます。
ゴートクジISISへの移転後はじめての収録となる今回、タイミング的には年末年始とも重なります。「う~ん… これにしよう」。松岡が選んだのは、第四百六十夜『朱舜水』と第五百二十夜『武家文化と同朋衆』。日本文化の基礎にある、この二つのテーマにくわえ、エマニュエル・トッド『経済幻想』を3つめに選定。江戸社会の奥から、構造主義的経済学まで洋の東西を高速にまたぐ3冊です。

「本楼」での「一册一声」の収録風景。ゴートクジに移ってはじめての収録となった。

ブレイクタイムでは、それぞれの感想を交わしあう。

広さ50坪ほどの「本楼」のオープンスペースは、四方の本棚がすべて、古代から現代にいたる日本文化や日本の歴史にかかわる書物で構成されています。玄関口の「井寸房」から躙戸(にじりど)を開けると、目の前に広がるエンサイクロペディックな多面空間。能・文楽・歌舞伎などの芸能ゾーン、お茶・お華・数寄三昧ゾーン、伝統工芸や名産品など各地域ゾーン、神道・国学・民俗学ゾーン、忍びと俳諧・和歌連歌など風韻ゾーン、東北学と3・11日本再生ゾーンなど、見どころが盛りだくさん。
メインステージとなる前方の舞台、ディレクターズチェアに腰かけた松岡の背後に広がるのは、この「本楼」のもっとも核となる一連の書物。ステージ上段の右から日本神話、記紀万葉、古代日本史、物語と古今伝授、下段の右から武家社会の成立、遊行と阿弥衆、織豊、徳川社会、水戸学、幕末まで。
今回の収録では、各テーマについて語りながら、ときおり舞台上の本棚に置かれた本を手にとって紹介。キーブックから広がるさまざまなリファレンスブックに触れながら、解説が加えられました。

本棚の本を手にとりながらの例示。
本棚空間と語りがインターテクスチャルに進んでいく。

ゴートクジに移転してはじめての収録は、始終なごやかな雰囲気で深夜まで続きました。この日本で唯一の"本の劇場空間"はこれからさらに、随所に演出がほどこされ、賑やかになっていくことでしょう。
編集工学研究所では、人々がお互いに書物への想いを交わしあい、読書のきっかけを与えあうようなコンセプトを、共に読書を起していくという意味の「共読」というキーワードに込めています。人々が集まり相互に「共読」が起っていくような理想の空間をカタチにするために、今後はこの「本楼」をさまざまにカスタマイズしていく予定です。配架、並び替え、文脈化、企画化、実現化・・まだしばらく試行錯誤が続きそうです。

 

※年末に収録された「一册一声」、第四百六十夜『朱舜水』および第五百二十夜『武家文化と同朋衆』 は、オーディオWebマガジン:千夜千冊サテライトメディア「方」の2013年1月号(1月8日配信スタート)にて公開の予定です。

→ 千夜千冊サテライトメディア「方」の詳細・ご登録はこちら


◇ むすびの「納会」つどう縁 ◇

「本楼」と「井寸房」を見どころとする、新事務所がはじめてお披露目されたのは、12月27日に行われた編集工学研究所および松岡正剛事務所の「納会」でした。連塾や椿座などのイベントに登場したゲストの方々、仕事上の縁側の方々、松丸本舗に想いを傾けた人々まで、150人におよぶ来場者が、世田谷の閑静な住宅街にある新しい"本拠地"を訪れ、祝いの場に立ち会いました。

「納会」モードに飾られた玄関口「井寸房」

ゴートクジISISのこけら落しは、粋な三味線の音色のなかでとり行われました。「まずは三味線だけでやりたい」という思いから松岡が招いた、本條秀太郎さん、西松布咏さん、史佳(ふみよし)さんの三人が、端唄、地唄、津軽三味線による至上の宴会芸を披露。書物によって囲まれた空間に沁みわたる和の音調とたおやかな謡い。心地よい響きが場をつつみ、「本楼」の本舞台での本と音楽の共演がはやくも実現しました。

ステージに上がってときに解説を交えながら端唄を披露する本條秀太郎さん。「いずれ御簾もかけたいね」と松岡。

音楽とともに会場をわかせた各来場者によるスピーチでは、この場にかける期待とともに、それぞれの思い描く未来像が語られました。数奇屋建築の名作を数多く手がけた名匠、中村外二さんのもとで修行した時代をふりかえりながら、「井寸房」というまったく新しい茶室空間への想いとそこに潜む可能性を説いた三浦史朗さん。ゴートクジの物件を松岡に紹介した張本人も三浦さんでした。建物全体をリフォームし、「本楼」の大広間をかたちにした東亨さん、林尚美さんは、作業のプロセスをたどりながら、この空間のコンセプトを解説。「待ちわびて集い想いて語り合う世田谷に出でたる極上のうち」この場に参じた思いを〈まつおかせいごう〉の8文字の暗号とともに短歌にした小堀宗実さん。メインフロアの照明演出をディレクションした藤本晴美さんは、今年松岡ともたびたび交流があった宮本亜門さんとともに「すべてを見届けます」と場に臨みました。

ゴートクジISISの仕掛人である三浦史朗さんと松岡。

スペースエディティングのすべてを引き受けた東亨さん。

光で空間を演出した藤本晴美さんと宮本亜門さん。

本に包まれた会場。真冬であることを忘れてしまうような不思議な温度感があった。

始終、なごやかな雰囲気となった、新ISIS事務所はじめてのイベント。夜が更けても時間を忘れて、音楽と歓談は明け方まで続きました。「連塾」で試みられた知の文脈化の方法と多様な演出、「松丸本舗」が世に発信した本と人の自由なかかわり方、そのすべてを引きとって、この世田谷の一角で新たなムーブメントが起りつつあります。来たる2013年の編集工学研究所の活動にご期待ください。

お互いに労をねぎらい、今後の展開に想い馳せる。

編集工学研究所の「納会」として、過去最大のスケールとなった。感謝を述べながら、新たな場の誕生を喜ぶ松岡。

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